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N4「~た/ないほうがいいです」の使い方について

「~た/ないほうがいいです」はアドバイスを表現する?

「~た/ないほうがいいです」は助言、忠告をするときに使うと説明する先生が多いと思います。

助言とは「相手のためになる意見」忠告とは「相手の過ちや欠点を指摘して、それを直すように勧めること」です。このような助言、忠告のことを「アドバイス」という言葉を使って説明する先生もたくさんいるでしょう。

この文型は、他人に何かアドバイスしたいときに使える表現ではありますが、文脈を間違えるとおかしな文ができあがってしまいます。

外国人に教えるときは、どんなときにアドバイスする表現なのか、文脈を意識しましょう。

教えるときのポイント

「~たほうがいいです」の導入として、よく教科書で使われるシチュエーションです。

例1:A「どうしたんですか。」

   B「やけどをしたんです。」

   A「じゃ、すぐ水で冷やしたほうがいいですよ。」

この会話の背景と、「~た/ないほうがいいです」の文脈まで分析したうえで、学生に教える必要があります。

Aさんは、やけどしたBさんに対して「すぐ水で冷やしたほうがいい」とアドバイスしています。

なぜ、どんな気持ちからこんなことを言ったのでしょうか。この短いやり取りから何を読み取りましたか。ここがポイントです。A,Bの会話からわかることは

1 Bさんはやけどをしたにもかかわらず、まだ患部を冷やすことをしていない

2 それを見たAさんが、早く冷やさないと大変なことになるよという忠告の意味でBさんに「すぐ水で冷やしたほうがいい」と伝えている。

ということです。

正しくない練習

「~た/ないほうがいいです」は、「これをしないとあなたにとって悪い結果になるよ」という意味のアドバイスであることを、教師側がしっかり理解しておきましょう。

このポイントを理解していないと、授業で違和感のある表現を学生に産出させてしまいます。

例:T「S1さんは最近悩みがありますか。」

  S1「はい、あります。最近ちょっと太りました。」

  T「そうですか。では、S2さん、S1さんに「~たほうがいいです」を使って何かアドバイスしてください。」

 S2「そうですね。S1さん、もっと運動したほうがいいです。」

この文脈での「運動したほうがいいです」は、日本人なら違和感がある表現ではないでしょうか。

S1さんが、極度の運動不足で肥満を医者に指摘されているレベルなら、S1さんの将来を心配して「もっと運動したほうがいいですよ」と伝えることは間違いではないでしょう。

ですが、ちょっと太ったからといって、運動しないと今後よくない結果になるといった状況とはいえません。ですから「~た/ないほうがいいです」といった表現がそぐわないのです。

このように、「今二日酔いなんです」「やせたいんです」「なかなか漢字が覚えられないんです」「日本語が上手になりたいんです」といった悩みに対して、「~た/ないほうがいいです」を使ってアドバイスするというドリルは、様々なテキストで目にします。

ですが、これらは「~た/ないほうがいいです」を正しく産出させるとは言い難い練習でしょう。なぜなら、悩みのある側に、今のままでは今後よくない結果になりかねないと思わせる現状が読み取れないと、「~た/ないほうがいいです」は使ってアドバイスすることができないからです。

練習例

日本語の教科書でよくあるドリルの例です。

例 A:「もっと日本語が上手になりたいんです」

  B:「じゃ、(       )たほうがいいですよ。」

よくある解答は、「日本人と話し(た)」「日本のドラマを見(た)」「日本人の恋人を作っ(た)」でしょうか。

ですが、さきほどもお伝えしたように、これは「~た/ないほうがいいです」を練習するにはふさわしくないドリルです。

「~た/ないほうがいいです」を使ったアドバイスをするシチュエーションでは、「私のアドバイス通りにしないと、今後よくない結果になるよ」といった背景が透けて見えることが必要です。

例 A:「あの〇〇課長、本当に腹が立つ。絶対に許さない!!」

  B:「そんな大声で上司の悪口を言わないほうがいいよ。」

この例文が日本語学校の授業で使えるかどうかは別として、「~ないほうがいいです」の使用場面としては特に違和感はないと思います。

なぜかというと、上司の悪口を職場で大声で言ったら、誰かに聞かれてしまうかもしれません。場合によっては上司本人が耳にする危険も考えられ、その場合はAの職場での立場も危うくなるかもしれません。そのような、今後起こりうる悪い状況を予測し、Bが「上司の悪口を言わないほうがいいよ。」とAに伝えているのです。

「~た/ないほうがいいです」のドリルを学生にさせる場合、ただ「困っている人」「悩んでいる人」にアドバイスすればいいというわけではありません。誤った用法で練習させてしまうことのないよう、教科書を鵜吞みにせず、効果的なドリルで、学生の理解を正しく深められるようにしていきたいですね。